東京高等裁判所 昭和24年(ネ)603号 判決
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「本件解雇は、控訴会社の企業再建整備のため経営権に基き人員整理の一環としてなしたものであつて、被解雇者の選定は控訴会社において制定した解雇基準により行われたものであり、被控訴人等が特に組合活動又は争議行為をなしたことを理由としたものではない、仮にかかることが解雇について多少の影響を与えていたとしても右は何等解雇の正当性を阻害しない、又控訴会社は公益事業を営む会社であるから争議行為は労働関係調整法第三十七条により制限を受ける関係にあり、その営む事業は同法第八条第三号の瓦斯供給の事業に該当するものである。昭和二十三年十二月六日の協定が特に秋田地方を除外したものであることは否認する、仮に秋田地方を除外した事実ありとするも右は組合の内部関係のみであつて、右事実は控訴会社の関知しないことである。なお秋田地方労働委員会が昭和二十四年六月十八日なした公訴請求事件は秋田地方検察庁において詳細取調の末昭和二十五年二月二十日附を以て嫌疑なしとして不起訴処分となつた。」と述べ、被控訴人等代理人において、「控訴会社の前記解雇の正当性に関する主張並びに控訴会社がその主張の如き公益事業を営む会社であつて争議行為が労働関係調整法により制限を受ける関係にあるとの主張には反対する。又昭和二十三年十二月六日帝国石油労働組合交渉団々長佐々木正縁と控訴会社との間になされた協定は被控訴人等の属する秋田地方を除外してなされたもので秋田地方は単独に争議を行うことを認められ、控訴会社においても右の事実を知りながら締結した協定であるから被控訴人等がこれに拘束される理由はない、更に被控訴人等は昭和二十四年一月当時秋田地方傘下の支部所属の組合員であつたことは認めるが当時既に本件解雇を廻り秋田地方労働委員会に提訴中であつたから、これら支部が控訴会社となした協定は本件解雇の問題を除外してなされたものである、仮に被控訴人等がその所属組合のなした協定に服すべきものとしても本件解雇は犯罪行為を構成するものであるから組合の協定によつてその不当性を解消せしめるものではない、更に又被控訴人等はその所属の組合員として行動していたが控訴会社においては当時既に被控訴人等を組合員として扱つていなかつたからこの点よりするも被控訴人等は各支部のなした協定に拘束されるものではない、次に被控訴人等が解雇手当を受領するに当り特に控訴会社に対し異議を止めなかつたことは認めるが、右は単に事務的に受け取つたものに過ぎない、なお本件解雇は旧労働組合法第十一条違反の外旧労働関係調整法第四十条にも違反するとの点はこれを維持して原審通り主張する」と述べた外はすべて原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。
(疎明省略)
四、理 由
控訴会社が石油採掘採油等を目的とする株式会社であること同会社(以下会社と略称する)が昭和二十三年十二月二日被控訴人等を含む当時の従業員に対し一方的に解雇の意思表示をしたこと、被控訴人等の右解雇前の勤務地区、職場、職名、職種、地位及び收入が被控訴人主張の通りであること、被控訴人等が解雇前帝国石油労働組合(以下組合と略称する)の組合員であつたことは控訴人の認めて争わざるところである。
而して被控訴人等は右解雇の意思表示は被控訴人等が組合の正当なる行為及び争議行為をしたことの故を以て行われたものであり且つ労働委員会の同意がないから右は労働組合法第十一条及び労働関係調整法第四十条(いずれも改正前のもの以下同様)に違反して無効である旨主張するので先ず果して控訴会社に右各法条に違反するが如き不当労働行為があつたか否かについて審究する。
成立に争なき乙第二十一号証、原審における債権者本人Aの供述により成立を認め得る甲第七号証の一、二、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第八号証、及び右債権者本人Aの供述によれば被控訴人等所属の組合は控訴会社の従業員を以て昭和二十一年三月頃結成され中央本部と東京、信越、山形、秋田、北海道の五地方、部よりなり地方には鉱場(又は之に準ずるもの)毎に支部を置き、秋田地方には八橋、由利、旭川、豊川、八森の五支部が属し支部役員として支部長、書記長、副部長、書記等があり、又争議に備えて闘争委員会が設けられ地方鬪争本部には闘争委員長、書記長、副委員長、組織部長以下各部長副部長その他の役員が置かれ、闘争委員として前記組合各支部に若干の支部闘争委員が配属していることが明かである。而して会社と組合との間には昭和二十二年八月十一日組合員に対する人事については別に協定された人事委員会規約により会社側及び組合側同数の委員から成る人事委員会で決定する旨の条項を含む労働協約が締結されたが会社は昭和二十三年春以来その改定を申し入れ、同年九月二十二日に至り一方的にこれを解除する通告をなしたこと、会社がその従業員の整理解雇を企て同年十一月七日組合の当時の中央闘争委員長等との間に二千十六名の人員整理に関する覚書を交換して双方がこれに仮調印をしたこと、会社の協約改定及び人員整理に関する動きに対し組合が交渉と闘争を重ね、同年四月以後時々二十四時間又は四十八時間の罷業を行い、特に六月初旬以来右仮調印まで人員整理に反対し続けて来たが同年十一月二十六日から四日間柏崎市で中央大会を開いて右仮調印を否決したこともまた当事者間に争なく、右組合の育成及び会社との交渉ないし争議において被控訴人Aは支部闘争委員、幹事、青年部役員として時には団体交渉の秋田地方代表又は青年行動隊長となり、被控訴人Bは職場闘争委員として、被控訴人Cは青年部地区委員、八橋支部文化部員、同支部青年部副部長として、被控訴人Dは支部常任委員、八橋地区闘争委員長、秋田地方闘争委員として、被控訴人Eは支部青年部長、文化部長、支部常任委員、秋田地方副委員長、中央執行委員、同経営対策部長等として、被控訴人Fは支部常任委員、秋田地方青年部長、秋田闘争委員、同組織部副部長、中央執行委員、同経営対策副部長等として、被控訴人Gは八橋支部会計監査、八橋地区闘争委員、地区住宅委員として、被控訴人Hは支部執行委員、八森支部副支部長、秋田地方闘争委員、支部経営対策部長として被控訴人Iは中央代議員、地方闘争委員支部青年部長、支部常任委員として、被控訴人Jは支部青年部幹事、委員、青年行動隊長として、被控訴人Kは由利支部常任委員、由利支部書記長(組合専従者)として、いずれも熱心なる組合活動をなしたものであることは成立に争なき甲第十七号証の一乃至十一、原審証人佐藤与市の供述により成立を認め得る甲第十八号証、原審証人山田五郎の供述により成立を認め得る乙第五十五号証の一乃至二十四、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第五十一号証の二及び原審取下前債権者本人M、原審証人L、原審並びに当審における被控訴本人(債権者本人)A、当審における被控訴本人C、Iの各供述によりこれを窺い得られる。
よつて本件解雇が被控訴人等が右の如く組合の正当なる行為及び争議行為をなしたことの故を以て行われたものやりや否やにつき按ずるに成立に争なき乙第二号証、同第三十一号証の一、三乃至十九、二十一、当裁判が真正に成立したものと認める同号証の二、二十、二十二、乙第五十六号証原審証人高田重(第一回)の供述に徴し成立を認め得る乙第二十九号証、同証人の原審における第二回の供述により成立を認め得る乙第五十三号証の一乃至十二、原審証人山田五郎の供述により成立を認め得る乙第五十五号証の一乃至二十七、及び原審並びに当審証人高田重(原審は第一、二回共)、山田五郎、松沢達雄、当審証人稻垣源太郎、荒谷孝助、中野恒之助の各供述を合せ考うれば、控訴会社は帝国石油株式会社法に基き昭和十六年九月に設立された石油開発を根幹とする所謂国策会社なるが戦時中強引に濫掘採収して来た石油国策は終戦とともに終止符を打ち、従前の損失補償その他の保護助成を失い、油田は荒廃し、生産源は未調査、未開発の儘に放置され、剰つさえ戦時中南方油田開発に応徴した要員が帰還したためこれを迎えた内地事業場は従業員の著しき過剰を來し、ために収入は減収の一途を辿るのに支出は益々増加するのみにて昭和二十二年十二月には遂に約千三百万円の損失となり翌二十三年三月にはその損失額は三千三百余万円に昇り、収支甚しく不均衡となり、収入に対する人件費の如きは昭和二十二年十月には四十二パーセントであつたものが翌二十三年三月にはその九十六パーセントを占めるに至り、これがために作業に必要な物品費その他の未払増嵩し、控訴会社に対する金融面は梗塞状態となり、かかる状況からして会社の石油鉱業も崩壊的危機に直面するに至つた、そこで会社は急速に企業を再建整備するの必要に迫られ、これがためには既存の油田につき採掘や採油を合理的に科学的に管理して能率的に行い地質調査や試掘を迅速に精密に効果的に行うことにより逐次新油田を発見して引続く生産源を確保するとともに、他方適正人員の適正配置を行い、石油鉱業の機動性による企業の合理化を図る必要あり、これがためには従業員につき人員整理をなすの止むなきに至つた、そこで会社は昭和二十三年十一月下旬頃その企業再建整備のための解雇人員を二千六百九十一名と発表したが、その後組合と交渉の末七百七十一名に減員されたのであるが、これが選定に当つては(1)休職者及び長期欠勤者(事情を斟酌しうるものを除く)(2)出勤の常でない者(3)業務怠慢者(4)技能劣等者(5)業務成績の挙らない者(6)事業経営上不用と認める者(7)昭和十八年六月一日以降入社の者(但し優秀者は除く)(8)数え年五十四才以上の者(但し優秀者は除く)(9)秩序を紊す者(10)行動不良の者なる十項目に亘る解雇基準を作り右基準該当者を調査した結果、被控訴人Aは右基準第五項第六項、被控訴人Bも同第五項第六項、被控訴人Cは同第五項第十項、被控訴人Dは同第五項第六項第十項、被控訴人Eは同第五項第六項、被控訴人Gも同第五項第六項、被控訴人Fは同第三項第七項、被控訴人Hは同第七項第九項、被控訴人Iも同第七項第九項、被控訴人Jは同第五項第七項、被控訴人Kは同第七項にそれぞれ該当することが判明したので遂に被控訴人等を含む約七百名の基準該当者を解雇するの止むなきに至つたことが認め得られ、更に成立に争なき甲第十六号証同第二十四号証の一、二、同第二十六号証、乙第七十一号証、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第七十二、第七十三号証によれば、帝石企業整備に伴い被控訴人等十一名が解雇された件について秋田地方勞働委員会は解雇をなした責任者に労働組合法第十一条又は労働関係調整法第四十条に違反する疑ありとして昭和二十四年六月十八日秋田地方検察庁に対し公訴の請求をなしたが同検察庁は多数関係者を喚問取調の上昭和二十五年二月二十日嫌疑なしとて不起訴処分としたことが明かである。以上の各認定事実に徴するときは、被控訴人等に対する本件解雇が被控訴人等において本件組合の正当なる行為及び争議行為をしたことの故を以て行われたものであると認定することは相当困難であつて、右認定に反する甲第十五号証同第十七号証の一乃至十一、同第十八、第二十五、第四十八号証、同第五十一号証の二の各記載並びに原審における証人並びに取下前債権者本人としてのL、当審証人荻津章、原審における取下前債権者本人M、原審並びに当審における被控訴本人(債権者本人)A、E、当審における被控訴本人C、Iの各供述はいずれもたやすく採用しがたくその他被控訴人等の提出援用に係るすべての疏明資料によるも未だ被控訴人等の右主張事実を疏明するに足らない。
しからば被控訴人等に対する本件解雇を目して前記各法条に違反するが如き不当労働行為となし難きこと明白であるから、右解雇が右法条違反により無効である旨主張して解雇の意思表示の効力停止を求める被控訴人等の本件仮処分申請は爾余の点につき判断するまでもなく失当であるから、これを却下すべきである。
よつて被控訴人等の右申請を認容した原判決は不当であり、本件控訴はその理由があるので民事訴訟法第三百八十六条第九十六条前段第八十九条に則り主文の通り判決する。
(裁判官 大江保直、梅原松次郎、奧野利一)